2026年3月、イラン情勢の緊迫化により原油価格が1バレル88ドルまで急騰し、日本政府は石油備蓄の放出とガソリン補助金の再開を決定した。3月19日から激変緩和措置が再開され、ガソリン価格を1リットルあたり170円程度に抑える方針が示されたが、IEAの協調備蓄放出だけではホルムズ海峡閉鎖による供給途絶を補うには不十分との指摘も出ている。
今回の事態は、日本のエネルギー安全保障の脆弱性を改めて浮き彫りにした。原油輸入の約9割を中東地域に依存する日本にとって、ホルムズ海峡は文字通り「生命線」である。地政学的リスクが顕在化した際、備蓄放出は短期的な対症療法に過ぎず、根本的な解決策にはならないことが明白となった。
石油備蓄制度は1970年代のオイルショックを教訓に整備されたが、当時と現在では国際情勢が大きく異なる。現代の原油市場は金融商品化が進み、投機的な動きが価格変動を増幅させる構造になっている。さらに、気候変動対策との両立という新たな課題も加わり、エネルギー政策は多面的な視点が求められる時代に入った。
ガソリン補助金の再開は家計や企業の負担軽減には有効だが、財政への影響も無視できない。補助金政策は市場メカニズムを歪め、省エネや代替エネルギーへの転換インセンティブを弱める副作用もある。短期的な痛み止めと中長期的な体質改善のバランスをどう取るかが、政策立案者の腕の見せ所である。
IEAの協調備蓄放出は国際協調の象徴だが、その実効性には限界がある。各国の備蓄量は限られており、長期的な供給途絶には対応できない。特にホルムズ海峡が完全封鎖された場合、世界の原油供給の約2割が失われることになり、備蓄だけでは到底賄えない規模の危機となる。
この危機から学ぶべきは、エネルギー源の多様化と脱炭素化の加速である。再生可能エネルギーの拡大、原子力発電の再評価、水素社会への移行など、選択肢は複数ある。同時に、エネルギー効率の向上や需要側の管理も重要な戦略となる。単一の解決策はなく、複合的なアプローチが必要だ。
イラン危機は一時的な問題かもしれないが、地政学的リスクは今後も繰り返し顕在化するだろう。日本が真の意味でエネルギー安全保障を確立するには、短期的な価格対策だけでなく、エネルギー構造そのものの転換が不可欠である。今回の危機を、持続可能なエネルギー社会への転換を加速させる契機としなければならない。